大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和31年(く)2号 決定 1956年4月21日

本籍 岡山県○○郡○○村○○○○○番地

住居 岡山県○○郡○○町○○○○○○番地

少年 藁工品販売業兼農業手伝 早乙女嘉七(仮名)

昭和十四年二月二十一日生

抗告人 附添人弁護士

主文

原決定を取消す。

事件を岡山家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の要旨は、少年早乙女嘉七は昭和三十年少第四一〇一号窃盗保護事件につき、昭和三十一年一月十八日岡山家庭裁判所において同少年を中等少年院に送致するとの決定を受けたが該処分は著しく不当であるから之が取消しを求める、というにあり其の理由として記載するところを要約すれば、

一、少年の非行前歴は首肯されるも本件については其の殆んどが同僚年長者の威迫に加えて使嗾に基く犯行であり少年自らの本意に出でたる犯行ではなかつた。

二、保護者において今後は少年を充分監督指導し本籍地に帰農させ父母愛護の下に保護教育を試みるときは少年の更生を期待し得るものであるから寛大なる処分を求める。

三、実父において少年非行に対する被害弁償に努力している。

というにある。

仍つて記録を精査し、当裁判所において事実の取調をした結果を綜合して考察するに少年は数名の共犯者中最年少者にして浅慮の上年長者と共に本件を敢行したこと、並に本件犯行当時は両親に於て少年の監督不行届のため少年の放縦性に起因することが窺われる。然しながら本件後父母において其の非を悟り被害弁償に奔走して被害を弁償し少年の身柄を引受けて住居地を離れたる本籍地に帰農せしめ厳重なる監督下に正業に就かしめる旨誓約して居り、其の熱意のあることが認められること及び其の他諸般の事情を斟酌するときは少年院に収容し強度の矯正教育は必ずしも必要とは認められず、父母の弛まざる慈愛観護と環境の整理により更生の途につかしめるが刑政の一途と認められる。

従つて本件抗告は理由あるものと認められるから少年法第三十三条第二項により原決定を取消し本件を岡山家庭裁判所に差戻すこととし主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 有地平三 裁判官 宮本誉志男 裁判官 浅野猛人)

別紙一(原審の保護処分決定)

少年 早乙女、嘉七(仮名) 昭和一四年二月二一日生 職業 自家手伝(藁工品販売兼農業)

本籍 岡山県○○郡○○村○○○○○番地

住居 同郡○○町○○○○○○○番地

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

少年はY、O(以上成人)、T、H、B、K(以上少年)と共謀して、別表記載の如く、昭和三〇年七月二〇日頃から一二月初頃までの間一〇回にわたり窃盗を重ねたもので、その所為はいずれも刑法第二三五条、第六〇条に該当する。(その他の事実については証明が充分でないので非行事実としての認定をしない。)

少年は小学校頃より成績振わず、中学校に入つてから怠学が次第に多くなり、学資の使込み、不良交友、喫煙、窃盗、暴行等がみられた。昭和二九年四月中学から更に高校に進学したが、相変らず怠学、不良交友を続け、飲酒を始め映画にふけるような状態であつたため同年九月退学し、以後家業の藁工品販売業を手伝つていたけれども、とかく怠業多く、自家保有米の持出、不良交友(主として住居地附近に住む本件共犯者)、家出外泊、女遊び等が頻繁にみられた。昭和三〇年一一月初頃家の金一〇、〇〇〇円を無断で持出して岡山方面へ家出遊興し、更に同月下旬頃二五、〇〇〇円持出して大阪方面へ家出遊興をなし、遊興費にせんためその頃から一二月上旬頃までの間次々と本件非行を重ね、それらによつて得た金を女遊び飲酒等に費消していた。又同年八月から一一月にかけて、再三にわたる警察官や家裁調査官の注意、訓戒にもかかわらず、約一〇回(或はそれ以上)にわたり自宅の自動三輪車の無免許運転を繰返していた(前件)。

資質的に知能はIQ七二を示し、意志薄弱で自主性に欠け、被影響性が強く、女遊び、パチンコ等の遊興癖、浪費癖は相当昂進しており、勤労意欲なく本件非行に対する反省心や道徳観念は殆ど認められない。

環境的に、家庭に父母は健在だが父は我欲強く、打算的で狡猾な点が認められ、母は知能極めて低く共に子弟に対して放任的で保護能力は殆んど認められない。父方の曾祖父、祖父、叔父、叔母はすべて精神病を有し、発狂して死亡したり、時々発作を起して狂暴性を発揮し、或は現に精神病院に入院したり、家に火を放つたりしている者ばかりである。叔母が現在同居しているが少年との折合は極めて悪い。住居地は○○駅に近く本件共犯者等素行不良者が多数居住しており、極めて不道徳的な地域で、少年はそれらの者と日夜交際している。

以上の様な資質、環境に照らし、今後再犯のおそれが極めて大きいので、環境調整もさることながら、先ず性格矯正のために強度の矯正教育が加えられなければならないと考え、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項に従い主文の通り決定する。

(昭和三一年一月一八日岡山家庭裁判所裁判官 上田次郎)

(少年早乙女嘉七の犯罪事実一覧表)

月日

共犯者

犯行場所

被害者

(所有者又は保管者)

被害品目数量

七月二〇日頃

玉野市○○○番地 A方前路上

バッテリ 一個

一一月二四日

○○郡○○町○○県道上

○○町農協組合長C

粳玄米 一俵

一一月下旬頃

同郡○○村○○番地D・軒下

籾二叺(六斗)

前同日頃

前同人

同村○○○番地E方前路上

籾三叺(一石二斗)

一一月末日頃

都窪郡○○町駅前附近

中古自転車一台

一二月四日

○○郡○○町国鉄○○駅構内ホーム

日本通運○○営業所長 M

粳玄米 一俵

前同日

同町国鉄○○駅構内貨物置場

日本通運○○営業所長 N

小麦 一俵

一二月上旬頃

前同人

前同所

前同人

粳玄米 一俵

前同日頃

前同人

前同所

前同人

前同日頃

前同人

前同所

前同人

別紙二(試験観察決定)

少年 早乙女嘉七(仮名) 昭和一四年二月二一日生

職業 藁工品仲買業兼農業

住居 岡山県○○郡○○町大字○○○○○○番地

保護者 早乙女熊次郎 五二才

続柄 実父 職業 藁工品仲買業兼農業手伝

住居 少年に同じ

主文

少年を家庭裁判所調査官守屋正直の観察に付する

遵守事項

一、X、B、H等の不良友達と一切交際しない事

二、無断外泊、家庭金品持出、其他不良な遊びをしない事

三、本籍地に於て専心農業に従事する事

四、毎月一回必ず近況を担当の調査官に報告する事

引渡条件

一、少年の身辺に関する異常(不良性行等)があればその都度報告する事

二、住居の変更、其他家庭状況の変化についてもその都度報告する事

(昭和三一年五月四日岡山家庭裁判所裁判官 三宅卓一)

別紙三(差し戻し後の保護処分決定)

少年 早乙女嘉七(仮名) 昭和一四年二月二一日生 職業 農業手伝

本籍 岡山県○○郡○○村○○○○○番地

住居 本籍地に同じ

主文

少年を岡山保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)

少年はY、O、T、H、B、Kと共謀して、別紙記載のとおり、昭和三〇年七月二〇日頃から一二月初頃までの間一〇回に亘つてA外六名所有のバッテリー等を窃取したものであつてその所為はいずれも刑法第二三五条第六〇条に該当する。

少年は中学、高校時代を通じて怠学、不良交友、学資の使込み、喫煙、飲酒、遊興等の不良行為を重ね、高校中退後も家業の手伝を怠け、二回に亘り家の金を持出して家出を繰返し本件非行も遊興費に窮した結果である。

資質的にも知能はIQ七二を示し、意志薄弱で自主性に欠け被影響性が強く、浪費性を有している。しかしながら、本件非行後保護者において従来の放任的態度を改め被害の弁償を済せ、環境の調整を試み現に母が少年を連れて本籍地に移住農業に従事させつつ熱心に補導し、少年自身も反省し不良交友を絶ち更生に努力し漸次健全な生活態度に復しつつあることが認められるが、少年の資質従前の環境の不良にかんがみ必ずしも前途の楽観を許さない。

よつて少年に対しては少年法第二四条第一項第一号少年審判規則第三七条第一項に則り主文のとおり決定する。

(昭和三一年一一月九日岡山家庭裁判所裁判官 三宅卓一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例